伝説の殺陣師・近衛十四郎が放つ剣気!松方弘樹へ繋ぐ時代劇の神髄
近衛 十 四 郎という名が放つ独特の響きに、日本の映画史が刻んだ凄まじい剣戟の残響を聞く。スクリーンの向こうから飛んでくる切っ先の風圧、鞘走る抜刀の速度、相手の眉間わずか数ミリでピタリと止まる鋼の軌道。どれをとっても常人の技ではない。昭和の銀幕を駆け抜けた数多の剣戟スターの中でも、彼ほど「本物の武芸者が映画の世界に迷い込んできた」と恐れられた男は他に存在しない。
刀身が空気を切り裂く鋭い音とともに、敵をバッサバッサとなぎ倒す殺陣の真髄。かつて映画館を熱狂の渦に巻き込んだ近衛 十 四 郎の神速の太刀筋は、デジタル映像全盛となった現在でも、観る者の眼球を釘付けにし、心胆を寒からしめる。
時代劇の神髄を極めた男:近衛十四郎の知られざる凄腕殺陣と生涯

1914年に新潟県で生を受けた目黒弘(後の近衛十四郎)は、若き日から柔道と剣道に打ち込み、強靭な体幹と鋭敏な反射神経を養った。新興キネマから大映、そして戦後の東映へと移籍する過程で、彼は単なる美男俳優の枠組みを自ら破壊していく。彼が目指したのは、舞踊のように華麗な立ち回りではなく、命のやり取りそのものをフィルムに焼き付ける「実戦的リアリズム」だった。
撮影現場での逸話は凄まじい。模擬刀ではなく、刃引きした本物の重い居合刀を好んで握り、常人の倍近い速さで振り抜く。カメラのフレームレートが追いつかず、コマ送りにしてようやく太刀筋が視認できたという記録すら残る。斬られる側の大部屋俳優たちにとって、彼の相手役を務めることは最高の栄誉であり、同時に極限の恐怖でもあった。寸分の狂いも許されない間合いのなかで、彼は生涯一度たりとも相手に怪我を負わせることがなかったという。
『柳生武芸帳』から『十三人の刺客』へ:東映株式会社が震えた居合の神速

1950年代後半から60年代にかけて、東映株式会社の黄金期を支えた彼の代表作といえば、言わずと知れた『柳生武芸帳』シリーズである。隻眼の剣豪・柳生十兵衛を演じた彼の姿は、まさに柳生の剣そのものだった。重厚な構えから一閃、瞬時に敵の喉元を捉える居合のスピードは、観客だけでなく共演者や監督たちをも唸らせた。
そして1963年、工藤栄一監督が手掛けた集団抗争時代劇の最高峰『十三人の刺客』。近衛が演じた浪客・牧野靭負の殺陣は、日本映画史における金字塔として語り継がれている。落合宿の泥濘の中で繰り広げられる死闘において、彼の太刀は重く、鈍く、そして凄絶だった。様式美に縛られた従来のチャンバラ映画を脱ぎ捨て、泥と血にまみれて刀を振るうその鬼気迫る姿は、時代劇というジャンルそのものを一段上の芸術へと押し上げた。
『素浪人 月影兵庫』と『素浪人 花山大吉』:おからと酒が紡いだ痛快無比のチャンバラ映画劇

映画界からテレビの世界へと主戦場が移り変わる中、近衛十四郎はお茶の間を席巻する新たな伝説を生み出す。それが『素浪人 月影兵庫』、そしてその続編である『素浪人 花山大吉』だ。品川隆二が演じる相棒・焼津の焼三次との絶妙な掛け合いは、当時のテレビ界に一大コメディ旋風を巻き起こした。
無敵の強さを誇りながら、猫が大の苦手で「おから」に目がなく、酒を愛してやまない花山大吉。普段のユーモラスで愛嬌あふれる昼行灯ぶりと、悪党を前に刀を抜いた瞬間に見せる冷徹な剣神のギャップ。この緩急の妙こそ、彼にしか演じ得ない至高のエンターテインメントだった。どれほどコミカルな作風であっても、抜刀した瞬間の殺陣のキレだけは決して妥協しなかった。その職人魂が、子どもからお年寄りまで日本中を虜にした理由である。
父から子へ受け継がれた血脈:松方弘樹と目黒祐樹が語る「剣士の背中」
近衛十四郎が遺した最大の功績の一つは、自らの至高の技術と精神を次代の名優たちへと継承したことだ。長男・松方弘樹、次男・目黒祐樹。昭和から平成の日本映画界・テレビ界を牽引した二人の名優は、偉大な父の背中を追い続け、その遺伝子を鮮烈に開花させた。
松方弘樹が時代劇で見せた豪快かつ華麗な太刀筋、独特の「引き技」や重厚な足捌きは、父・近衛十四郎の徹底的な指導と観察から生まれたものだ。松方は生前、父の殺陣について「到底追いつけない巨大な壁だった」と畏敬の念を込めて語っていた。また、国際派俳優として確固たる地位を築いた目黒祐樹も、父の徹底したリアリズムへのこだわりを自らの表現の礎としている。剣を通じて命を吹き込む――その魂は、一族の血脈の中で確かに脈動し続けた。
徹底解剖・なぜ彼の殺陣はCG全盛の現代でも色褪せないのか
近年のアクション映画では、ワイヤーアクションやVFX、細かいカット割りによって迫力を作り出す手法が主流となっている。しかし、近衛のフィルムを観れば、真の迫力とは人間の肉体そのものが放つエネルギーにあるのだと痛感させられる。
彼の殺陣の特異性は、足腰の沈み込みと腰の回転から生み出される「刃の質量感」にある。腕先だけで刀を振るのではなく、全身の骨格を使って刀の重さを相手に叩き込む。さらに、斬り抜けた後の残心(ざんしん)の美しさ。刀を納める一瞬の静寂に漂う気迫が、画面全体の空気を凍りつかせる。ギミックに頼らない本物の身体能力と、何千回何万回と繰り返された素振りの果てに到達した極致だからこそ、どれほど時代が移ろうともその輝きが褪せることはない。
配信アーカイブで熱狂が再燃:Amazon Prime Videoや東映時代劇YouTubeで観る至高の剣戟
時代劇ファンにとって幸福なことに、近衛十四郎が残した名作群は今、デジタルアーカイブを通じてかつてない手軽さで再発見されている。東映時代劇YouTube公式チャンネルでは代表的なテレビシリーズの名場面やエピソードが定期的に配信され、リアルタイム世代のみならず若い世代の映画ファンからも「この殺陣の速さはCGなのか」「実写でこの動きは信じられない」と驚愕のコメントが殺到している。
さらに、Amazon Prime Video内の専門チャンネルや、高画質リマスター版を放映する時代劇専門チャンネルにおいても、彼の出演作が続々とラインナップされている。かつて映画館の暗闇で人々が息を呑んだ伝説の刃は、ストリーミングという新たな鞘から引き抜かれ、国境や世代を超えて再び世界中のファンを魅了し始めている。今こそ、日本が誇る不世出の剣戟スターの真実を、その目で目撃すべき時だ。 (出典: 近衛 十 四 郎(Yahoo!ニュース))