ブロンソンの一言が変えた時代「うーんマンダム」衝撃の誕生秘話
うーん マンダム——顎を撫でながら放たれた低く渋い呟きは、半世紀以上が過ぎた今なお、日本人の記憶の底を揺さぶり続けている。白煙立ち込める荒野、滴る水、逞しい肉体。1970年に放映されたこのテレビCMは、単なる商品の広告という枠を完全に破壊し、列島全体を巻き込む社会現象へと昇華した。
当時の茶の間で子どもから大人までがこぞって真似たうーん マンダムというフレーズは、倒産寸前だった一社の運命を大逆転させ、日本のメンズコスメ史の地図を一晩で塗り替えた。昭和レトロカルチャーの金字塔としてYouTubeやSNSでも再燃するこの伝説は、どのようにして生まれ、なぜ今も色褪せないのか。
倒産危機から奇跡のV字回復:丹頂株式会社が賭けた大博打

時計の針を1960年代末に戻そう。当時、ポマードやチックで知られた老舗の丹頂株式会社は、急速な時代の変化に追いつけず深刻な経営危機に喘いでいた。若者の長髪化に伴い、整髪油の需要は急降下。化粧品業界における自らの立ち位置すら失いかけていた。
「このまま座して死を待つわけにはいかない」。立ち上がった二代目の西村彦次氏は、社運のすべてを賭けた大改革に打って出る。海外志向の強い若者に向け、爽快な使い心地の新たな男性用化粧品シリーズを開発。そのブランド名こそが「マンダム」だった。だが、新商品を出しただけで売れるほど甘くはない。経営陣は全資産を注ぎ込む覚悟で、前代未聞の広告戦略へと舵を切った。
のちに株式会社マンダムへと社名変更を果たす同社にとって、このプロジェクトは失敗すれば即倒産という、まさに背水の陣の大博打だった。
『荒野の七人』の大スターを口説き落とせ!チャールズ・ブロンソン起用の舞台裏

起死回生のシンボルとして白羽の矢が立ったのは、ハリウッドのアクションスター、チャールズ・ブロンソンだった。『荒野の七人』や『大脱走』で見せた、泥臭くも圧倒的な男のフェロモン。甘美な美青年が主流だった当時の日本の広告界において、髭をたくわえた無骨な男の起用は異例中の異例だった。
まだ海外の大物俳優が日本のテレビCMに出演することなど極めて稀だった時代だ。交渉は難航を極め、提示された契約金は当時の同社の規模からすれば天文学的な数字。社内からは「会社を潰す気か」と猛烈な反対が巻き起こった。それでも経営陣は信念を曲げなかった。「本物の男の魅力を届けるには、ブロンソンしかいない」。
アメリカ・ユタ州の大自然やハリウッドのスタジオを舞台にした過酷なロケーション。ブロンソンは持ち前のストイックさで現場を牽引し、カメラの前で凄まじい存在感を放ち始めた。
巨匠・大林宣彦とジェリー・ウォレスの名曲が生んだ映像革命

この歴史的CMのメガホンを取ったのは、後に日本映画界の巨匠として数々の名作を世に送り出す若き日の大林宣彦監督だった。大林監督が目指したのは、商品の説明など一切排除した「1本の映画」としての圧倒的な映像美だった。
荒野を駆ける馬、夕日を浴びて光るブロンソンの筋骨隆々な肉体、スローモーションで飛び散る水滴。そして、その映像に決定的な魂を吹き込んだのが、カントリー歌手ジェリー・ウォレスが歌うテーマ曲『男の世界(Lovers of the World)』だった。哀愁を帯びたアコースティックギターとハスキーな歌声は、映像と完璧なシンクロを見せる。
CMソングとしてリリースされたこの楽曲は、オリコンの洋楽チャートで堂々の1位を獲得。音楽と映像、タレントの個性が三位一体となった表現は、当時のクリエイティブの常識を根底から覆した。
伝説のセリフ「うーん マンダム」誕生秘話と現場のアドリブの真相
語り継がれるあの不朽の名言は、いかにして生まれたのか。実は、当初用意されていた絵コンテや台本には、もっと説明的で整ったセリフが並んでいたという。しかし、大林監督とブロンソンが現場で対話を重ねる中で、「本物の男に理屈っぽい言葉などいらない」という共通の直感が芽生えた。
撮影のラストシーン。シャワーを豪快に浴び、オーデコロンを首筋に叩き込んだブロンソン。鏡を見つめ、指先で顎のラインをなぞりながら、深い息とともに腹の底から呟いた。「Mmm... Mandom」。その場にいたスタッフ全員の背筋に電流が走ったという。日本語のナレーションではなく、ブロンソン自身の肉声による「うーん マンダム」が歴史に刻まれた瞬間だった。
無駄を極限まで削ぎ落とし、男のナルシシズムと開放感をわずか数秒に凝縮したこのラストカットは、放映開始と同時に日本全国を熱狂の渦へと巻き込んだ。
昭和レトロカルチャーからYouTubeへ:Z世代に刺さる「男臭さ」の再評価
放映から長い年月が流れた今、このCMは昭和レトロカルチャーの最高峰として再び脚光を浴びている。YouTubeや各種SNSでは当時の映像が繰り返しシェアされ、Z世代を中心に「今見ると逆に新しくて圧倒的にかっこいい」「本物の渋さがある」と絶賛の声が止まらない。
ジェンダーレスやナチュラルな身だしなみが当たり前となった現代だからこそ、ブロンソンが見せる剥き出しのワイルドさと、大林演出によるフィルムの重厚な質感は、若い世代にとって強烈なカルチャーショックとして映る。単なる懐古趣味にとどまらず、タイムレスな芸術表現として再解釈されているのだ。
メンズコスメ新時代へ挑む株式会社マンダム:最新ブランド戦略の全貌
ブロンソンの伝説的CMによって日本のメンズコスメの覇権を握った株式会社マンダムは、時代の先を見据えた大胆な進化を続けている。かつての「男臭さ」や「力強さ」の象徴から、個々の多様な美意識やライフスタイルに寄り添う総合ビューティケア企業へと領域を拡張した。
最新のブランド戦略では、長年培ってきた男性肌研究の知見を注ぎ込んだ高機能スキンケアや、環境負荷を最小限に抑えるスマートリフィル仕様のパッケージを本格展開。ジェンダーフリーなコスメラインからシニア世代に向けたエイジングケアまで、全世代の清潔感と自己表現を支えるポートフォリオを構築している。
時代が移り変わろうとも、根底に流れる哲学は揺るがない。「自分らしく、心地よく生きるための美しさ」。かつてチャールズ・ブロンソンが鏡の前で見せた至福の表情は、現代の私たちの日常の中へ、確かに息づいている。 (出典: うーん マンダム(Yahoo!ニュース))