海へ続く石畳「きらきら坂」取材班が明かす混雑回避と夕景の極意
きらきら 坂の石畳を踏みしめると、潮風とともに波の穏やかな音が耳朶を打つ。瀬戸内海国立公園の豊かな自然を抱く兵庫県赤穂市・赤穂御崎。その突端に位置するこの急峻な坂道は、まるで海へとそのままダイブしていくかのような錯覚をもたらし、空と水面が溶け合う青のパノラマへと旅人を誘い込む。足元に敷き詰められたタイルや石畳が陽光を浴びて乱反射する様は、まさにその名に違わぬ輝きだ。
古くから塩の産地や港町として栄えた赤穂の伝統と、南欧の海辺を思わせる小粋な空気が共存するきらきら 坂は、今やトラベル&レジャーの最前線で熱い視線を集める場所となった。週末ともなれば、日常の喧騒から逃れてきた人々が吸い寄せられるように集まってくる。我々取材班は、その引力の正体を確かめるべく現地へと向かった。
瀬戸内海を一望する隠れ家カフェと名店「SAKURAGUMI」の美食革命

坂を下りきった先、磯の香りが一段と濃くなる波打ち際に、一軒の際立つ存在感を放つ名店が佇んでいる。真のナポリピッツァを日本に定着させた立役者の一人、西川悟氏が率いる「SAKURAGUMI(さくらぐみ)」だ。薪窯から立ち上る香ばしい煙と、瀬戸内の新鮮な魚介を惜しみなく使った料理の数々。テラス席に座れば、眼前に広がるのは遮るもののない海だけ。西川氏がこの地に蒔いた情熱の種は、単なるレストランの枠を超え、坂一帯を美食の拠点へと押し上げる原動力となった。
現在、坂の周辺には古民家を再生した隠れ家的なカフェやスイーツショップが点在する。地元産の柑橘を贅沢に使ったジェラートや、自家焙煎のスペシャルティコーヒー。テイクアウトしたカップを片手に、海を眺めながら段差に腰掛けて過ごす時間こそが、旅人にとっての何よりの贅沢だ。路地裏にひっそりと暖簾を掲げるクラフトショップを覗けば、赤穂の塩を使ったオリジナルソルトや焼き物が並び、職人の手の温もりが静かに伝わってくる。
伊和都比売神社から海へと抜ける小道――奇跡のロケーション撮影地

坂の起点となるのは、縁結びの神として篤い信仰を集める伊和都比売神社(いわつひめじんじゃ)だ。神社の鳥居越しに瀬戸内海を望む構図は圧巻の一言に尽きる。鳥居をくぐり、緩やかなカーブを描く石段を下っていく動線そのものが、神聖な静寂から開かれた海へのシネマティックな転換を演出している。
この唯一無二の景観は、InstagramやYouTubeをはじめとするソーシャルメディア上で瞬く間に拡散された。現在では映画やミュージックビデオ、ウェディングの前撮りなど、屈指のロケーション撮影地としてクリエイターたちからも熱烈な支持を受けている。スマートフォンの画面越しでは決して味わえない、光の粒子が舞うような臨場感。レンズを向ける人々が思わず息をのむ瞬間が、ここには幾度となく訪れる。
現地取材で判明した最新の魅力:混雑を避ける裏ルートと夕景の撮影秘訣

今回の現地取材を通じて見えてきたのは、訪れる時間帯とルート選びによって全く異なる表情を見せるという点だ。休日の正午から午後3時頃にかけては、メインの石畳が多くの観光客で賑わいを見せる。しかし、喧騒を避けてゆったりと散策を楽しむための「裏ルート」が存在する。神社の東側から岬の遊歩道を経由し、崖沿いの緑豊かな小道を抜けて坂の下部へと回り込むアプローチだ。このルートを進むと、観光客の視線を外れ、波の音と木々のざわめきだけが響くプライベート感あふれる景色に出合える。
さらに特筆すべきは、夕暮れ時の圧倒的な美しさだ。播磨灘に沈む夕日が水面を黄金色に染め上げるマジックアワーは、きらきら坂がもっともドラマチックに輝く時間帯。夕景の撮影における秘訣は、坂の最下部から神社方向を見上げるのではなく、坂の中腹から海へ向けて広角レンズを低めに構えることだ。濡れた石畳に夕暮れの残光が反射し、歩く人のシルエットが水鏡のように浮かび上がる。日没前後のわずか20分間、空のグラデーションが刻一刻と変化する様は、訪れた者の記憶に深く刻まれる。
赤穂御崎の歴史と地形が育んだ独自の景観美
きらきら坂の魅力は、単なるフォトジェニックな景観だけに留まらない。その根底には、赤穂御崎が数千年にわたって紡いできた自然と歴史の重層的な美しさが横たわっている。複雑に入り組んだリアス海岸と、瀬戸内特有の穏やかな潮流。かつて北前船が風待ちのために寄港した港町の記憶が、石垣の積み方や路地の細部に今なお息づいている。
坂道に使われている石材やタイルの質感、風雨に耐えてきた木造建築の風合い。それらすべてが、赤穂の潮風と太陽に馴染み、唯一無二のテクスチャーを形成している。開発の手が過度に入ることなく、地形の起伏をそのまま生かした街並みだからこそ、訪れる者はどこか懐かしく、同時に異国情緒あふれる不思議な居心地の良さを覚えるのだ。
観光・旅行産業の変革期に兵庫県観光本部が描く持続可能な未来
全国的にオーバーツーリズムが課題となるなか、観光・旅行産業はいま大きな転換点を迎えている。兵庫県観光本部をはじめとする地域振興の牽引役は、単なる一時的な集客数の増加ではなく、滞在型観光と地域文化の保全を両立させる持続可能なモデルケースとして赤穂御崎エリアに注目している。
温泉旅館街とのシームレスな回遊性を高め、朝の静けさや夜の星空まで楽しむ宿泊体験の提案。さらには、地元住民の暮らしを守りながら旅人を温かく迎え入れるコミュニティ主導のルールづくり。きらきら坂を中心としたこのエリアの取り組みは、ローカルツーリズムがいかにあるべきかという問いに対する一つの明確な回答を示している。
日常を脱ぎ捨てて波音に浸る――きらきら坂が紡ぎ出す新たな旅の記憶
旅の終わり、茜色から深い群青へと移り変わる海を眺めながら坂を登り返すと、心地よい疲労感とともに胸の奥がすっと軽くなるのを感じる。ただ海を眺め、風を感じ、美味しいものを味わう。そんな旅の本質的な歓びが、この小さな坂道には凝縮されている。
季節が移ろい、光の角度が変わるたびに、石畳はまた新しい輝きを見せてくれるはずだ。デジタルな情報があふれる世界だからこそ、肌で感じる潮の香りと波の音を求めて、人々は再びこの坂道へと還ってくるのだろう。 (出典: きらきら 坂(Yahoo!ニュース))