熱気と煙に包まれる久礼大正町市場!極上カツオと混雑回避の真髄
久礼 大正 町 市場に一歩足を踏み入れた途端、鼻腔を突くのは野太い藁の焦げる匂いと、生々しい潮の香りだ。わずか数十メートルのアーケードに響き渡る威勢のいい浜言葉。銀色にぎらつく魚の腹に刃が入るたび鮮烈な赤身が露わになり、観光客の歓声が上がる。ここは単なる観光地ではない。数百年ものあいだ黒潮と対峙してきた漁師町・久礼の心臓部そのものだ。
高知市内から西へ車を走らせて約1時間。太平洋のうねりを見下ろす港町に佇む久礼 大正 町 市場は、平日であろうと週末であろうと、本物の味を求めて全国からやってくる美食家たちの熱気に包まれている。だが、無計画に突撃すれば長蛇の列に呑まれ、獲れたての極上魚を逃してしまうことも少なくない。港町の息吹を五感で浴びつつ、最高の状態で皿の上の恵みを平らげるためのリアルな視点をお届けする。
路地裏に漂う香ばしい煙と活気!田中鮮魚店で味わう極上藁焼き

市場の代名詞ともいえる存在が、創業から地元民の台所を支え続けてきた田中鮮魚店だ。店先に並ぶのは、その日の朝に水揚げされたばかりの旬魚たち。だが、誰もが目を奪われるのは店頭奥で突如として立ち上る猛烈な炎だろう。
バチバチと爆ぜる乾燥した稲藁の炎が、分厚いカツオの皮目を一瞬で焼き締める。この豪快な「カツオの藁焼きタタキ」こそ、四国屈指の究極体験だ。皮目は香ばしくパリッと熱を帯び、中はひんやりと冷たく、脂が舌の上でとろける。ニンニクスライスと青ネギをたっぷりのせ、粗塩をひとつまみ振って頬張れば、都会の居酒屋で口にするそれとは完全に別次元の衝撃が走る。向かいの食堂スペース「漁師小屋」に持ち込み、炊き立てのご飯と味噌汁とともに食す時間は、旅のハイライトにふさわしい。
混雑を完全回避する穴場ルートと現地直送の旬魚を狙う時間帯

目当ての魚を最高のコンディションで味わい、無用な行列を避けるには明確なセオリーが存在する。ピークタイムである午前11時半から午後1時半の間、市場の細い通路は肩が触れ合うほどの人口密度に達する。狙い目はズバリ「午前10時30分」の到着だ。
多くの店舗に朝獲れの魚が並び揃い、藁焼きの第一陣が仕上がるのがこの時間帯。まずは田中鮮魚店で目当てのサクをキープし、食堂の席を確保してから、市場内の露店でウツボの唐揚げや獲れたてのウルメイワシ、季節のイカなどを物色するのがスマートな立ち回りだ。車でアクセスする場合は、市場直近の駐車場はすぐに埋まるため、久礼港側の広大な臨時駐車スペースを利用し、潮風を感じながら徒歩5分のアプローチをとるのが最もストレスのない抜け道となる。
土佐の一本釣りが育んだ魂!漫画家・青柳裕介が愛した海の日常
この市場の空気がどこか泥臭く、それでいて圧倒的に魅力的なのは、背後に息づく漁師文化の厚みゆえだ。久礼は古くから「土佐の一本釣り」の拠点として名を馳せてきた。網でまとめて獲るのではなく、荒波の中で釣り竿一本を操り、魚体を傷つけずに引き上げる職人技。その命がけの営みと漁師たちの生き様を世に知らしめたのが、この町を舞台に名作『土佐の一本釣り』を描いた漫画家・青柳裕介氏だ。
作中に登場するような豪放磊落な漁師たちの気風は、路地のあちこちに健在である。「兄ちゃん、今日のカツオは脂の乗りが違うぞ!」と声をかけてくる店主の笑顔の奥には、黒潮の恵みとともに生きてきた揺るぎない誇りがある。
水産業の誇りと観光・インバウンド産業が交錯する港町のいま
地方の過疎化が全国的な課題となるなかで、中土佐町役場や高知県観光コンベンション協会は、伝統的な水産業と進化する観光・インバウンド産業の共生を模索してきた。単なる「古い市場」を保護するのではなく、体験価値を高める取り組みが実を結び始めている。
欧米やアジア圏からの個人旅行者が、市場の路地で身振り手振りを交えながらタタキを頬張る光景も日常となった。多言語表記のガイドやキャッシュレス決済が整備されつつも、過剰な商業化に走ることなく、魚屋と客が対面で言葉を交わす昭和の情緒が守られている。この絶妙なバランスこそが、世界中の旅人を惹きつける最大の要因だろう。
Google マップや食べログの評価を超えた「本物の味覚体験」
現代の旅人は、Google マップの星の数や食べログの口コミスコアを頼りに店を選びがちだ。もちろん、久礼大正町市場の人気店はどこも高評価を叩き出している。しかし、この場所の真価はアルゴリズム化された数字の向こう側にある。
市場の片隅で売られている素朴なところてん、朝水揚げされたばかりの雑魚の天ぷら、地元のおばあちゃんが漬けた田舎寿司。ネット上のレビューには載らないような名もなきご当地グルメの一品一品が、どれも鮮烈な旨味を放っている。レビューの星を気にする暇があったら、目の前の湯気や魚の目の輝きを信じること。それこそが、この市場を遊び尽くす唯一の鉄則だ。
高知の旅で絶対に後悔しないために知っておくべき歩き方
カツオの旬には、春のさっぱりとした初鰹と、秋のねっとりと脂が乗った戻り鰹の二つの波がある。どちらの季節に訪れても市場はその表情をガラリと変え、訪れる者を飽きさせない。食後は市場の裏手に抜けて、太平洋を見渡す久礼八幡宮の境内を散策してみてほしい。
海とともに祈り、海とともに食らってきた町。潮騒の音を聞きながら歩けば、先ほど胃袋に収めた命の重みと、土佐人が紡いできた文化の深みが静かに染み渡る。旅の記憶とは、ただ観光地を消費することではなく、その土地の熱量をまるごと身体に刻み込むことなのだと、この市場は教えてくれる。 (出典: 久礼 大正 町 市場(Yahoo!ニュース))